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大阪高等裁判所 昭和24年(を)1404号 判決 1949年12月19日

被告人

戎勝弘

外一一名

主文

被告人德本実、戎勝弘、增田兼周、靑木克暢、德本信雄、宇野潔、池田新吉及び上田孝臣の本件控訴は孰れも之を棄却する被告人孝岡菊次郞、油木和一、寺内司及び辻内末吉に対する原判決は孰れも之を破棄する被告人孝岡菊次郞を懲役一年六月に被告人油木和一を懲役一年に被告人寺内司を懲役一年及び罰金五万円に被告人辻内末吉を懲役十月に処する。

右被告人四名に対し本裁判確定の日から孰れも三年間右懲役刑の執行を猶予する。

被告人寺内司に於て右罰金を完納することができないときは金二百円を一日に換算した期間同被告人を労役場に留置する当審の訴訟費用は被告人上田孝臣、宇野潔及び辻内末吉三名の負担とする。

理由

所論の通り刑事訴訟法第三百二十條所定の証拠は之を証拠とするについて同條所定の要件を具備することを必要とする而して右証拠を採用するについて愼重でなければならないことは所論の通りである、然しながら被告人が原審公判で強制によるものと供述したからとて輙しその供述のみを措信し口供書は強制によるものであると断じ去る訳には行かない。被告人の右弁解を措信するかどうかは直接に審理したる原審裁判官がその弁解の内容、態度弁解の事実の立証に被告人又は弁護人が努力したかどうかといふやうな諸般の事情或は作成された当該書面の形式等から合理的に判断すべきものである。論旨は結局原審と反対の見解に立ち原審の專権に属る証拠の取捨を非難するものであつてこれを採用することはできない。

控訴趣意

原判決は証拠能力のない書面を証拠として犯罪事実を認定する資料としたものであるから到底破棄を免れない。

原判決は右被告人戎の犯罪事実として昭和弍拾四年一月十五日頃と相被告人入江一夫及び入本武雄、川崎力藏と共謀して窃盜を爲し(第二ノ(一)第三ノ(一))相被告人德本実同入江一夫、同屋野武雄、同池田新吉、杉本某、北田茂外数名と共謀して昭和弍拾四年一月二十日頃窃盜し(第一ノ(一)、第三ノ(二))相被告人德本実、同入江一夫、同增田兼周、同屋野武雄、同池田新吉、同上田孝信、杉本某外数名と共謀して窃盜を同年二月二日頃爲した(第一ノ(二)、第三ノ(二))及び同年三月二十日頃賍物の牙保を爲した(第三ノ(三))事実を認定しその証拠として関係者の訊問調書をその資料として居るのであるが、右各事実認定の最も根底的なものは相被告人入江の口供書及び被告人自身の口供書であることは各事実につき引用の訊問調書類を精読すれば明である。

然るに右供述調書(口供書を含む)は原審に於いてその証拠とすることにつき被告人弁護人に於いて異議がなかつたによることは明であつて一見これを証拠に引用することには何等の違法の点がないように見える、けれども此等の書類が証拠とされるときには訴訟関係人に於いて異議がない丈では足らずその書面が作成され又は供述のされたときの情況を考慮し相当と認めるときに限り此れが許されるのであつて(刑事訴訟法第三百二十六條第一項)單純に異議がない丈で証拠にすることが許されないのは新しい訴訟法の弁論主義口頭主義の当然の結果であり基本的人権の擁護を建前とする新法の精神からも同樣であり何れにしてもその証拠力を誤めることは例外規定であることは銘記されねばならない。そしてその適用に際しても同條項の規定を極めて嚴格に解釈せねばならぬことも当然である。現在極めて多くの事件に於いて此等の証拠能力なき書面が異議がないという理由で証拠能力ありとせらるゝ事になつた結果第三百二十六條第一項の規定する要件の存否を問ふ事を忘れてゐるやうに見えるのは新訴訟法の精神に鑑み相当重大なことと考へてよろしい。本件につて此を見ると相被告人入江一夫は第五回公判に於いて、「口供書には大分間違があります、強制的に書かされたものです」と述べて居り被告人自身も第七回公判に於いて奧平弁護人(他の被告の弁護人)の問に対し同樣その任意に出たものでない旨の答をしてゐるのである。此の事実が公判的に於いて明にされた、以上此を証拠に供することは第三百二十六條第一項の制限によりもはや許されないものといはねばならない。第三百二十二條の規定と第三百二十六條の規定とを彼此対照しても前記の論議は誤りでない事を確信する、尚又此等の口供書は形態は各被告人につき認定された犯罪事実と符合する陳述を含むから此を自白といふ事が出來よう。果して然らば刑訴法第三百十九條により証拠と出來ない事は自明の理である。以上に述べたやうに原判決は採証に関する訴訟法の規定に反して居るから破棄されねばならない。

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